伊藤研究室の研究紹介


研究課題


1. 水道水中の環境ホルモンの検出と制御に関する研究

 内分泌攪乱誘発性が疑われる個々の化学物質について、暴露評価や毒性評価などが進められているが、一方で、水の消毒副生成物のような混合物についての評価も重要である。本研究では、1)水道水のエストロゲン様作用の重要成分の特定、2)オゾン-活性炭処理を含む浄水処理における低減過程の評価、に関する実験を行い、本リスクの回避手段または低減手段を示すことを目的としている。本年は特にトリハロメタン問題との対応について解明を進める。エストロゲン様作用の検出のためには、ヒト乳がん細胞(MVLN細胞)を用いホタルの発光反応を利用した試験を行う。

2. 水質管理におけるバイオアッセイの活用法の研究

 現在の水道水質基準の項目数は85であるが、今後はさらに増大し100を超える可能性もある。この状況に対して、この研究では慢性的毒性としての発がん性に着目し、水質管理に総括的水質指標としてバイオアッセイの結果を活用する方法について検討を行う。バイオアッセイとしては、チャイニーズハムスター肺細胞を用いる染色体異常試験と、マウス繊維芽細胞を用いる形質転換試験とを行い、それぞれ画像解析装置を用いて評価を行う。

3. 飲料水の安全確保を目的とした高度浄水処理法に関する研究

 これまでの本研究室の研究から、水道水の塩素消毒によって、発がん物質やエストロゲン様作用物質が生成することがわかってきた。この研究では、塩素と水中有機物とが反応して生成する発がん性やエストロゲン様作用といった有害性を制御することを目的として、膜処理、オゾン−活性炭処理などを用いた高効率処理法の開発研究を行う。

4. 水利用の便益に基づいた水源の広域的管理計画法に関する研究

 流域を総合的に、統合的に管理する必要性が指摘されてきたが、人や社会の水との関わり方は多様であるため実効ある形で実施するのは容易でない。この研究では、流域の人々の水に対する価値意識を重視して、水利用に伴う便益や水の環境としての便益の定量化を試み、これらと流域諸地域の特性や人々の生活、社会条件との関係を考察する。これを通じて、人々の流域に対する一体感を創出しつつ、効果的な流域管理を実施する方策を検討する。主作業は既存データの収集と社会調査等を予定し、解析には地理情報システム(GIS)を活用する。

5. 環境計画における市民の視点の組込み手法に関する研究

 環境の計画にあたって、それが真に市民の視点に立ったものであるためには、人々の心理とそれに基づく行動とを適切に取り入れたものとする必要があろう。本研究ではまず、人が対象を認知してから、内的過程を経て、行動に至るまでを、日本人の特徴を組み入れつつモデル化する。これを用い、水道水の臭気や公害に対する苦情、水道水質に関するリスクコミュニケーションを対象としたシミュレーション解析を行う。

6. 水道水質のリスクマネージメントに関する研究

 WHOは2003年に飲料水水質ガイドラインを全面改定する予定であり、日本でも基準の見直しが進められている。そこでは項目数がさらに増大する見込みであるが、今後は、基準項目としての採否、基準値の遵守のみにこだわらず、水質特性に応じて、リスクの発生状況を把握し、その対応策をもつことが求められよう。本研究ではこのための第一段階として、リスクマネージメントの一つの方法論を整備する。具体的には、消毒副生成物のうち、指針値の強化後対応が課題となっているジクロロ酢酸を取り上げ、水道水中出現濃度に関する信頼性分析などを行う。