京都大学 工学部地球工学科 環境工学コース Undergraduate Course Program of Environmental Engineering
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流域圏総合環境質研究センター 環境質管理 COURSE KEYWORD:Heartware,Hardware,Software

自然由来で汚濁を引き起こす物質や、人が活動をする上でつくりだす汚染物質の発生機構や環境中の運命、それらが生態系に及ぼす影響について研究しています。

環境を想い衛(まも)ることができる私に!Support the living, To be in harmony with the environment
  • 流域レベルから分子レベルの環境の質を研究しています。流域レベルから分子レベルの環境の質を研究しています。
  • アジアの英知を結集した統合的流域管理の実現アジアの英知を結集した統合的流域管理の実現
  • 自然由来の有機物(NOM)の化学構造と生態影響の解明に挑む自然由来の有機物(NOM)の化学構造と生態影響の解明に挑む
  • 水問題や食糧不足を解決する「魔法のトイレ」水問題や食糧不足を解決する「魔法のトイレ」
  • 新しい遺伝毒性検出方法の開発新しい遺伝毒性検出方法の開発

地理情報システム(GIS)モデルによる流域管理、水環境中天然有機物群の構造解析とその物理化学的特性に関する研究、環境汚染物質の毒性発現メカニズムの研究などを通して様々なレベルから環境質の管理の問題と創造にアプローチしています。

2001年に、琵琶湖流域のダイオキシン濃度に関する調査を行いました。目的は、汚染物質の拡散状況を把握するシミュレーションモデルを作ることです。何かの事故が起こって有害物質が琵琶湖に流れ込んだとき、それがどのように広がっていくのか、汚染物質の動きを予測できれば、浄水場の水がいつまで安全に飲めるのかがわかります。
このモデルを応用した日本とマレーシアの共同研究プロジェクトを進めています。マレーシアは地球温暖化の影響が深刻で、近年では集中豪雨や川の洪水が多発しています。プランテーション(大規模農園)による土壌改変や農薬散布の影響など、多様な要素をすべて考慮し、雨の影響や川の流れに関する詳細な予測が求められているのです。予測の精度を高めるためには、雨量や植生、人口分布、土地利用状況などの膨大なデータが必要です。例えば植生なら、植物の種類、葉の大きさや根の深さなどきめ細かなデータをすべて入力します。マレーシアでは測定されていなかったデータも多く、現地の大学などと協力してデータ収集を進めています。データは衛生写真などさまざまな方法を駆使して集められ、GISを使って入力し解析していきます。GISはマッピング機能に加えて、データを組み合わせたり、変数を加えたりしてシミュレーションできる機能を備えた総合的なシステムです。
多民族国家マレーシアには異なる立場の人々がいて、利害関係の調整が困難です。しかし、将来の姿を予測できれば、利害関係者の妥協点を探り、みんなが納得できるシナリオを提言できます。日本で開発された流域管理シミュレーション技術は、世界の問題解決にも役立っているのです。

水環境に存在する事前由来の有機物(NOM)の機能や役割については多くのことが分かっていません。NOMが複雑な混合物であり、通常の化学分析が苦手とする研究対象だからです。NOMの構成成分を科学的に再現するアプローチでこの問題に挑んでいます。組成分析、NMR等の高度機器分析による「化学構造の解明」、光合成阻害試験や細胞毒性試験などによる「生態影響の評価・解析」などの領域をカバーして研究を展開しています。健全な生態系の創成には、NOMの環境中での挙動や生態影響の解明が重要だと考えて研究を行っています。

2003年に世界の水問題を話し合う、第3回「世界水フォーラム」が京都で開催されました。これに参加したアフリカのある少女が、「私たちは教育を受けることができない」と訴えたのです。彼女は片道4時間もかかる水くみのために、学校に通う時間がないのです。村の近くには川が流れていますが、上流に住む人々の排泄物が流れてくるので飲み水にはできません。だから遠くまで水くみにでかけなければならず、学校に行きたくても行けないというのです。
我々の排泄物は固体(便)と液体(尿)に分類できます。便には病原性微生物が含まれますが、尿は実はきれいなものです。しかも尿には窒素・リン・カリウムなど植物の肥料となる栄養物質が、豊富に含まれています。「汚い固体」と「きれいな液体」は別々に排出されるのですから、そのまま分けて処理すれば肥料を取り出すことができます。そのために考案されたのが、「し尿分離式トイレ」です。
便は灰を使って病原菌を処理します。発展途上国では燃料として木を燃やすので、その時に出る灰を有効利用するのです。灰はアルカリ性で臭いを吸収するうえに水分を吸収するときに発熱するので、病原性微生物を殺して消毒します。こうした処理済みの便は、土壌改良剤としても活用できます。
途上国で、試験的にこのトイレが導入されました。尿を肥料として活用することで農作物の収穫量が増え、蓄えもできるようになりました。その蓄えで得た資金でゆっくりとトイレを増設しています。排泄物もアイデア次第で資源になるのです。このトイレは、日本でも災害時の活用を想定した実用化が進められています。このような問題解決法は、人々の命を守る「衛生工学」の分野で研究されています。衛生工学は、世界の人口が増えるにつれ大きな課題となっている食糧問題を解決する手立てにもなるのです。

化学物質の中には、DNAを損傷して、突然変異や発がんの原因となるものがあります。新しい化学物質を開発する際には遺伝毒性試験が義務付けられ、ヒトの健康や環境を衛(まも)るうえで大きな貢献をしています。しかしながら、現状行われている遺伝毒性試験は何十年も前に開発されたものであり、発がん性の予測が正確でないなど、様々な問題点が指摘されています。一方、近年の分析機器の性能向上や、染色体生物学の発展は目覚ましく、これらを駆使した新しい遺伝毒性試験を再構築する機は熟しています。我々はDNAの損傷を網羅的に解析する「DNAアダクトーム法」や、「次世代DNAシーケンサーを用いた新しい突然変異検出法」、そして、バイオイメージングやプロテオーム技術を駆使した「新しい染色体異常の評価法」について研究を進め、遺伝毒性試験の新機軸を打ち立てようとしています。

清水芳久教授 Professor Yoshihisa Shimizu
在学生の声『多くの分野にまたがる人と人とのつながり』